卓球の、僕にしては惚れ込んでいた人に嫌われてしまった。
嫌われたというより、別の道を歩み始めたのかもしれない。
僕という人間は心の理論が人より遅れているので嘘をついてもバレてしまう質だから、
普段から嘘をつかない生活を心がけている。今回は、それが悪い方向に働いてしまった。
粘着ラバーという、ベトベトしたラバーがある。
ボールがくっついて逆さにしても取れない粘着力を持つものが中国粘着というラバー。
卓球ラバーでは一番回転がかかるが、そのぶん相手の技術が自分より上だと、
1つの亀裂で簡単にダムが崩壊して負けてしまう。
だから、中国ラバーは幸せな国である日本国の国民には向かない、
大器晩成のラバーだとされる。
試合では公平性を期してラバー本来の性能で対戦しなければ反則となる。
僕の中では試合と練習はそもそも区別していなくて、
練習でも試合と同等の緊張感でやっていたものだから…。
「相手のラバー、別のに変えたのかな?でも当てればアンチの挙動で擦れば掛かる、そんなアンチなんてあったっけなあ」
休憩中に断って確認したら、なんとラバーがサラサラしている。
それどころか、粉を吹いていた。中国粘着、それもプロ仕様のラバーが、だ。
こんな選手に堕ちてしまったのか。
残念すぎて泣きそうになったんで「今の◯◯さんとは打ちたくありません」とだけ伝えて、
わざと目を合わさないことにした。それが変な方向に解釈されてしまった。おそらく。
その直後に少し泣いたのが更によくなかったのかもしれない。
そうかどうかはわからないけど、あの人は堕ちた、飛ぶ鳥は落ちた。
あのあと何回か誘ってみたけど、返信してくる文体を読む限りは
嫌いになったというわけではなくて、距離を置いて、別の道を歩んでいるんだな、とも思える。
でも、あなたが嫌いです、というわけではないんだよなあ。うーん。
また戻ってきてくれるかどうか、時間が解決してくれるでしょう。
僕が交友を絶った数なんて、2人しか居ないから、
しかも名前を忘れてしまい誰を切ったか覚えていない。
それくらい、僕が人を嫌いになることは、可能性としては限りなくゼロなんだ。
戻ってきてほしい。あの日のあなたを、どうか思い出してください。