長いこと僕はワカバ60で卓球をしていた。
ワカバ60は貼上げラケットのひとつで、JTTAAマークもある。
バカにしている人も多いが、たかだか1000円程度に確かな性能を見出す人も少なくない。
もちろん、当時の僕はそんなことは知らなかったし、
手頃な価格で一番しっくり来る卓球ラケットという程度の認識だった。
何年放置されているかわからないものも、置いてあれば使っていた。
僕は選手でもなければ卓球部にいたわけでもないし、
体育の授業がきっかけの、ただの一般人だ。
一般人と打ち合って、温泉卓球で漫然とプレーをしていた。
それでも何故か、僕は卓球が好きだった。
ワカバ60は確かに、いま持っているラケットに比べたら劣等なのだけど、
昔は3年以上放置のワカバ60でも、それなりの回転を掛けることができていた。
至る所にワカバ60が置いてあったし、ワカバ55も置いてあった。そういう時代。
僕が試合を忌み嫌うようになったのは、いつからなのかはわからない。
何が原因でそういう思想になったのもわからないし、相手がいる以上、試合はごく自然のこと。
僕は上手くはない。だけれど、中途半端に打ててしまう。
そのことが、余計に試合から僕を遠ざけている一因になっているのだろう。
「奥野さんのドライブは取りづらい」 だから 「打ちたくない」 「嫌だよ」
これが、僕の卓球人生において一番のトラウマ。
良いことも悪いことも含めて一番記憶に残っている、もう2度と掛けられたくない言葉。
卓球が好きだし、人間も好きだから、余計に落ち込む。
数年前、カットマンに転向したのだけど、これもよくなかった。
ドライブに比べれば下手なのだけど、
そもそもカットマンが得意な市民というのはなかなかいない気がする。
僕は小心者で、誰かがそばにいると安心する。
大会とか、試合とか優劣はどうでもいいから、ずっと打ち合っていたい。
なのに、離れていく。
今はそうでもないのかもしれない。
この間、試合中に点数調整をしていることを仲間に暴露した。
こうやって同じことを繰り返してしまう。昔の傷を癒すのは難しい。